DEVOA 西田大介 × THE VIRIDI-ANNE 岡庭智明が語る
「セッション」的創造の裏側

今回は、DEVOAのデザイナー西田大介さんと、THE VIRIDI-ANNEのデザイナー岡庭智明さんにお話を伺いました。
二人が立ち上げたプロジェクト「ISŌ:位相」には、セールスディレクターの小山氏も加わり、3人の才能がまるでセッションのように絡み合って服作りが行われています。
個人のブランドとは全く違うプロセスや考え方、そして25FWコレクションのアイテムの裏側まで、詳しくお聞きしました。

DEVOAの西田大介氏とTHE VIRIDI-ANNEの岡庭智明氏によるコラボレーションプロジェクト。セールスディレクターの小山氏を加えた3人体制で、個々のブランドの枠を超えた自由なクリエイションを展開。「バンドセッション」のように、それぞれの才能やアイデアが交差することで生まれる、予測不能で純度の高いものづくりを追求している。
プロジェクトの始まりと、ユニークな制作スタイル
18年の信頼が生んだ、自然発生的なプロジェクト
本日はありがとうございます。まず最初の質問ですが、「ISŌ:位相」が始まったきっかけ、特にお二人がどうやって知り合って、一緒にやることになったのか、そのいきさつを教えていただけますか。
西田: そうですね。僕と岡庭さんが出会う前に、まず僕と小山くん(現セールスディレクター)に昔からの繋がりがありました。
僕がDEVOAの展示会で東京に来た時に、その小山くんが岡庭さんを紹介してくれたのが、もう18年前になります。
岡庭: ええ、それが最初の出会いです。そこからパリでの合同展をご一緒させてもらったりもしましたが、付き合いは長くても、特にお互い「一緒に何かやろう」という話があったわけではありませんでした。
それぞれが独立したデザイナーとしてリスペクトしつつ、会えば話すという心地よい距離感を保っていましたね。
西田: 関係が変わったのは、僕の方から「コラボ企画のようなことをやりませんか?」と声をかけたのがきっかけです。
岡庭: 正直、最初に聞いた時は「僕でいいの?」と思いましたよ。でも話を聞いたら、すごく面白そうだなと。
ただ、そこからすぐ始まったわけではなくて、1年くらいは具体的な目標もないまま、だらだらと「雑談」するような期間が続きました。


お互いのクリエイターとしての「凄み」
お互いをクリエイターとしては、どのように見ていらっしゃいますか?
岡庭: 西田君は、とにかく「生地好き」、生地フェチですね。本当に好きだから、ものすごく詳しい。
いつも生地のことを考えている時が楽しそうで、生地の話になると長いんですよ(笑)。でも、そこが本当にすごいなと。
僕は生地の雰囲気で「いいな」と感じるんですけど、彼はそれをゼロから作るために「ここをこうした方がいい」と考える。まるで料理人がスパイスを調合するように、生地を作っていく感じですね。
西田: 岡庭さんは、細かい部分への「気づき」が本当にすごいなと思います。お客さんが気づくようなちょっとしたことはもちろん、気づかないような服の作りの部分とか、パターンのことまで、ちゃんとした理論があってやられている。
冗談を言いながらやっているように見えて、実はすごく物を見て、考えて、気づきを持っている方。一緒に仕事をさせてもらうと、自分にとってすごく勉強になりますね。
バンドセッションのような創作プロセス
その信頼関係が、ユニークな制作スタイルに繋がっているんですね。
西田: まさに「バンドセッション」みたいな感じです。普通のコラボレーションだと、どちらかのブランドが土台になることが多いと思うんですけど、僕らはそれぞれのパートがあって、セッションしながら作っていく。
僕が提案した生地が、岡庭さんのデザインで全然想像していなかったアイテムに仕上がっていくのを客観的に見るのが面白いんですよ。「ああ、こういうアイテムに使うんだ」って。
岡庭: 好きなものはそれぞれ違っても、向いている方向性が大きくは違わないんです。だから、意見がぶつかるというよりは、話しているうちになんとなく「ちょうどいい落としどころ」が見つかる。その感覚がすごく心地良いんですよね。
「責任は3分の1」という名の解放区
ご自身のブランドでの服作りとは、気持ちの面で違いはありますか?
岡庭: 全然違いますね。自分のブランドは一人なので、やっぱり緊張感があります。うまくいかなくても全部自分の責任ですし、「なんでこれにしちゃったんだろう」って後で悔やんだりもします。
でも「ISŌ:位相」は、アイデアが3倍出るのに、責任は3分の1で済む(笑)。この環境があるからこそ、逆に「THE VIRIDI-ANNEは、よりらしくしなければ」と、自分のブランドに対しての気持ちが引き締まりますね。
西田: 僕は逆で、DEVOAとは完全に切り離して考えています。DEVOAでは自分のフィロソフィーに深く没頭しますが、ISŌではそのプレッシャーから解放されて、新しい発見を純粋に楽しむことができる。そういう感覚ですね。

その自由な服作りの中で、一番「楽しい」と感じるのはどんな瞬間ですか?
西田: すごく単純ですけど、サンプルが上がってきた時ですね。DEVOAだと、ある程度は「こうなってくるだろうな」と予測できるんですけど、「ISŌ:位相」は本当に予測不能なんです。
自分が渡した生地が、全然違うものになって返ってくる。その瞬間が一番楽しいですね。
岡庭: 全く同じです。サンプルが上がってきた時の「おぉ!」っていう驚きは、自分のブランドの時より大きいかもしれない。「へえ、この生地でこれをやると、こうなるんだ。いいじゃん!」っていう発見ばっかりですね。
25FWコレクションのすごい裏話
ヘビーピケ:不安から傑作へ
最新の25FWコレクションは本当にすごいですが、特に象徴的なアイテムについて、その裏側を詳しく教えてください。
岡庭: 一番は、やはりヘビーピケを使ったアイテムじゃないですかね。西田君がこの生地を見せてくれた瞬間に「これはすごいな」と。完全に「生地勝ち」というか、正直、何を作っても格好良くなるだろうな、という感じでした。

西田: あれは開発が本当に大変で…。僕が持っているヴィンテージの生地を全部解析して、糸から再現したんです。
特殊なのは、2色の糸を使っているのに、加工する前はただのダークブラウンの平坦な生地にしか見えない。それを生地の段階で特殊な収縮加工をかけて、さらに製品にしてからブラスト加工をかけると、初めて奥の色が出てきて、あの表情になるんです。
完成形と全然違うものを工場に渡すので、「本当に狙い通りに仕上がるのかな」って、常に不安でしたね。多分、僕よりも生産現場の人たちの方がすごく大変だったと思います。
個人的には、もう二度とやりたくないくらいです(笑)。
パッチワーク:常識を超えた生地作り
そこまで…。パッチワークのブルゾンも衝撃的でした。
西田: めちゃくちゃ面倒くさいですよね、あれ(笑)。でも、岡庭さんが描いてくれたラフ画のバランスが本当に凄くて。あれがそのまま再現できたのは、自分にとっても驚きでした。
岡庭: 生地の選定も面白かったですよ。お互いに何種類か生地を持ち寄って、「このバランスだったらこの色がいいかな」ってみんなで相談しながらピックアップしていきました。

一体、どのように作られているんですか?
岡庭: 驚かれるかもしれないですけど、あれはベースとなる生地の上にパーツを縫い付けているんじゃないんですよ。
僕がパッチワークの仕方や形まで全部指示した図面を渡して、6、7種類の生地をパーツの形にカットして、一個一個、手作業で繋ぎ合わせてもらっているんです。
まず1m80cm×1m20cmくらいの巨大なパッチワークの「パネル生地」を何枚も作って、そこから服のパーツを裁断していく。しかもブルゾンとパンツでは、その「パネル生地」の設計自体が違うんです。
西田: ビジネス的に考えると、極めて効率が悪いですよね。でも、このやり方じゃないと表現できないものが間違いなくあるんです。
岡庭: 個人的にはパッチワークも好きですけど、それとはまた別に、レザーブルゾンも凄いと思いますよ。
コラボレーション相手の選び方と、その哲学
「本物」との対話
「ISŌ:位相」では、様々なブランドとコラボレーションされていますが、そこには何か特別な考え方があるように感じます。
西田: 普通のコラボレーションだと、どちらかのブランドのベースに何かを乗せるだけ、ということが多いですよね。でも僕らは最初から、「バンドのようにお互いのパートがあってセッションできたらいいね」と話していました。
今もその気持ちは変わらず、本当の意味でよく混ざり合ったものが作れていると思います。
岡庭: だから、僕らがコラボレーションするのは、その分野の「スペシャリスト」だけですね。「この人に任せたら間違いない」と100%信頼できる人たちとしかやりません。
ANACHRONORM、incarnationとの化学反応
例えばANACHRONORMとの協業は、どのような経緯だったのでしょうか。
岡庭: 自分のブランド(THE VIRIDI-ANNE)ではやらないけれど、「ISŌだったらデニムという要素は面白いんじゃないか」と。そして、「デニムをやるなら、僕が知る限り田主くんが一番うまいな」と思ったんです。
もちろん他にもうまい人はたくさんいると思うけど、僕が知る範囲では、ですね。彼とは僕がブランドを始めるよりも前、彼がまだ岡山のセレクトショップの店長だった頃からの付き合いで、僕もANACHRONORMの服をよく愛用していました。
そういう古い信頼関係があるので、こちらから加工のイメージを伝えたら、最初のサンプルで「もう7割方OK」というものが上がってきました。「うまいな」と、ただただ感心しましたね。

incarnationとのレザーウェアも印象的でした。
西田: パターンは僕たちISŌ側から出して、縫製から加工までを全部incarnationにお任せしました。ただ、僕たちがあえて提案したのは、incarnationでは普段やらないようなフィット感のパターンだったんです。
僕らにとっても独自性のある商品になったし、慶太さん(incarnationのデザイナー)にとっても新しい形のものができたんじゃないかなと思います。
製品にはもちろん自信はありましたけど、ある程度の金額になるものなので、実際にお店に並んだ時、お客様がどう感じてくれるだろうか、ということについては、正直不安はありましたね。

NEKKA、colophon folkとの共鳴
服のブランドだけではないとも伺いました。
岡庭: 25FWのダメージニットは、「NEKKA」というブランドの女性デザイナーにお願いしました。彼女は、昔ビートたけしさんが愛用して有名になった「FICCE UOMO」でニットを学び、コム・デ・ギャルソンやナンバーナインのニットを長年担当してきた、知る人ぞ知る職人さんなんです。
ブランドの知名度じゃなくて、そういう本質的な価値で判断するのが僕らのスタイルですね。

西田: アクセサリーは「colophon folk」というブランドの女性作家さんにお願いしました。彼女は自らアフリカまで行って、現地のアンティークパーツを一個一個買い付けてアクセサリーを作っている。
僕たちから伝えたのは、組み合わせの「色の方向性」だけなんです。あとは、彼女が現地で集めた材料を使って、一個一個手で組み上げてもらいました。
「ISŌ:位相」のコラボレーションは、そういう僕らが本当に面白いと感じる「本物」との対話なんだと思います。

結び:未来の姿と、読者へのメッセージ
最後に、この記事を読んでくださる方々へメッセージをお願いします。
西田: それぞれ自分のブランドを持っているデザイナーが、一回きりじゃなくて、継続的に一つのブランドをやっていくっていうのは、かなり珍しいケースだと思います。
その背景にある僕らの関係性とか、楽しんでいる空気感も感じながら、商品を手に取ってもらえたら嬉しいですね。
お客さんが自分だけのものとして、時間が経って変わっていく様子を楽しみながら、大切に着続けてくれることが、僕らにとって一番の喜びです。
岡庭: 「ISŌ:位相」は、シーズンごとにどんどん変わっていく、先の読めないブランドだと思います。
一つ一つのアイテムは奇抜なものではないですけど、素材とデザインの組み合わせには常に新しい発見があるはず。
決まった着方は全くないので、買ってくださったお客さんが、ご自身のスタイルで自由に楽しんでくれることを願っています。
本日は、貴重なお話を本当にありがとうございました。

インタビュアー、編集 : 森崎 徹(FASCINATE)