2022SS(春夏)コレクションでの挑戦とは?
作り手の思想にフォーカスを当て、クリエーションの裏側にせまるデザイナーインタビュー企画。
今回はDEVOAの2022-23SS(春夏)コレクションについて。
製作の過程や創作の裏話についてデザイナー、西田氏にお話を伺いました。
スポーツインストラクターを経て2005年、ブランド創設。
自身の経験と知識に基づいたパターンとハイクオリティな物作りが国内外のコアなファッションフリークからの支持を集めている。
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22SSコレクションは、Schoeller(シェラー)の高機能素材を用いたスポーツスタイルと、天然素材生地を用いたクラシックなスタイルという、対照的な2つスタイルを軸に展開されていました。
それを踏まえ、まず、今期の全体的な特徴について教えてください。
大きな特徴としてはそれぞれ素材の雰囲気は真逆ではありますがMIXしてスタイリングする事により、生地それぞれが持つ特徴を持ちながら新しいスタイルが発見できる事を目的としました。
---一つのコレクション内でこれほどくっきりとテイストが分かれたアイテム構成のコレクションは初めてではないでしょうか?
この構成にしたのにはどのような理由がありますか?
それぞれの素材が持つ雰囲気をスタイリングでMIXする事を提案したかったので、商品自体は差がある様に区分けしてご提案しています。
EXISTとして製作する商品に関してはDEVOA独自の哲学を色濃く表現した商品が多く登場します。
撥水、通気性等の機能はもちろんですが素材の厚みや機能を人体の各箇所に使い分けて縫製したりと私自身の特徴であるレスリングやスポーツインストラクターの経験を生かした商品を製作しています。
天然素材とのパッチワーク的な表現ではなく、高機能素材のみを使い特殊ミシンや副素材であるゴムなどの部分まで専門的な資材を使って縫製しています。
--- 西田さん自身は「2つのスタイルを別々にではなく、一つのスタイリングに融合できるようにした」とおっしゃっていましたが、この提案に新しく挑戦した理由や、そこに至ったきっかけを教えてください。
製作するにあたってのきっかけ的な事は天然繊維だけでは出来ない事の実現と自分の本質的に得意な分野を見つめ直すことにより高機能素材のみでの構成にも挑戦しました。
縫製面に関しては生地が高機能と天然繊維のボンディング素材もありの裏側が天然素材のもので全方向ストレッチなど特殊素材が多くこの素材等に伴った縫製テスト(テープ処理等)など何度かやり直しなど通常では使わない資材テストなども含めると私自身も勉強になる事が多かったです。
特に高機能素材については何年も前から使用していますが、今までより独自のアナトミカルな考え方と体幹バランスの変化をあまり誇張させる事無く反映させたパターンとして考え製作しています。
A.V.Cスリーブ等の独自ギミック的な部分にも挑戦しました。これは機能的な提案ではなく体幹バランスに影響を与えを変化させるという提案をしています。
--- 高機能素材のアイテムには「DEVOA
EXIST」という名前が付けられています。
「EXIST」には、「存在する、現われる、生きている」などの意味がありますが、どのような思いや意図を込めたのでしょうか?
現在のスポーツブランドはそれぞれが色々な商品価格と品質バランスにおいて圧倒的パフォーマンスを持っていると思います。
EXISTと題してDEVOAの特徴を凝縮させ高機能素材のみで商品を構成する事は、私自身にとっても挑戦であり自分の原点的な部分を理解しながらDEVOAの哲学的な部分を反映させた商品として製作しました。
高機能素材に特化した商品制作をDEVOA内で製作する場合は素材に拘りDEVOAとしての考え方と哲学が詰まったバランスをスタイリングと合わせて構築する必要があると考えました。天然素材と高機能素材をスタイリングでMIXする事がDEVOA:EXISTとしての提案です。
--- 西田さんは、Schoeller(シェラー)の素材にはどんな魅力を感じていますか? また、今回のコレクションにおける高機能素材のアイテムはどんな位置付けですか?
シェラー社の素材に限らず、高機能素材は天然繊維では補えない部分を多く持っています。シェラー社の特徴として自然の構造や機能を取り入れている生地が多く存在します。
例えばC-CHANGEでは松ぼっくりの温度調節を模して温度による生地密度を変化させて通気や保温をしたり、ネイチャーテックと称した素材では天然繊維と高機能素材をボンディングしそれぞれの特徴を生かしたりと、一般的な合成繊維の生地とは大きく異なり一線を画していると思います。
DEVOAで使用している高機能素材は大きく特徴がある生地を使用しており、一般的に高級な天然素材よりも高価な分、パフォーマンスは圧倒的な部分があると感じています。
DEVOA内での位置付け的には特に考えていませんが、私自身の経験から生まれた哲学と特徴である一部分を表現できたと感じています。
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22SSコレクション内の天然繊維生地についてもお伺いします。
22SSコレクションも21SSも同様に全体的に軽い生地が目立ちますが、昨今の気候の変化とともに服の「重量」や着用時の「体感温度」についての考え方がかなり変わってきたことを感じています。
西田さん自身はこの変化をどのように捉えていますか?
現実に季節の温度は少しづつ変化していると感じています。
気候の変化は大きな影響を与えていると思いますが、それ以前に私自身が軽い素材と着心地が良い服を求めて制作しているからだと感じています。
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DEVOAのコレクションでは毎シーズン、品質の良さとともに素材の表情や風合いの表現にも重きを置いて制作されています。
今期の生地で「素材の表情や風合いの表現」にこだわったところ、あるいは表現に苦労されたところはどんなところでしょうか?
夏素材は毎回悩んでいます。生地や糸は薄く、細くなるにしたがい高価になり一般的にはそのパフォーマンスは伝わりづらい部分が多くあるからです。
このバランスについてはまだまだ勉強中だと感じていますが出来るだけ素材の特徴を生かしながらDEVOAとして可能な品質は継続出来るように努力しています。
風合いなどの拘った部分は専門的部分や名称が多い事と目に見えない部分が多いのでぜひ手に取って感じていただきたい部分が多くあります。
アイテムの色合いも、全体の雰囲気としては21SSから継続しておられますが、ベージュやブラウン系の落ち着いた色がポイントになっているように感じます。
コレクションの中でポイントになっているのはどのカラーでしょうか?
DEVOAとしてはシーズン全体を通して黒を使う事が多いので軽い素材を多く使う春夏シーズンは気分を変えやすいと思うので明るめの色合いを多く使う事を自然と意識するようになったのだと思います。
ポイントになるカラーという意味としては製作していないのですが黒以外でも全体的にスタイリングできる商品構成になっていると思います。
個々の生地をみていくと、22SSではブロックチェックやストライプ、ジャカードといった柄を用いた生地も印象的でした。
柄の生地はコレクションにどういう雰囲気を加えていると思いますか?
単純に生地製作において糸から染色する場合が多く、生地組織の構造によって掛け合わされた色を想像して制作している事が多いので柄は大きく意識はしていない部分が多いです。
製作は思った通りに行く事はありますが想像と違う色表情になる場合もあります。コレクションとしての着地点は感覚でやっている部分が多くあるので言葉で説明するのは難しいですね。
---今季のコレクションで、西田さん個人が気に入っている、あるいはデザインを楽しんだのはどの生地でしたか?
春夏は特にシルクを用いる事が多いので、今回もワイルドシルクを使った生地はまた一つ勉強になる事が多かったと思います。去年製作したワイルドシルクとは生産国、糸の太さ、固さなど全く違うシルクを使っています。
今回出来上がった生地はドライタッチな事と併せて通常のシルクと違い、水洗いも可能で抗菌性と通気性に優れ生地表面の表情が豊かな事が大きな特徴です。
---ルックはスタジオと街中で撮影したものが2つあります。
街中での撮影は、14SSのパリの街中で撮影したムービー以来かと思いますが、このロケーションを選んだ理由を教えてください。
天然繊維と高機能素材をMIXしたスタイリングに対して単純なスタイリングの提案としてでは無く、混沌とした世界の中に自然と機械的な部分が混ざりあった雰囲気を表現する上で都会的な背景での撮影に挑みました。
夜に撮影しましたが人通りは殆ど無く、誰もいない夜のオフィスビル街は何だか作られたセットの中で撮影しているように感じました。
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新型コロナウイルスの影響は依然として強く残っていますが、一時期よりも収まってきて、街中にも少しづつ人が戻ってきたように思います。
このような社会情勢の変化は西田さんの心境やコレクション制作にも影響を与えたのでしょうか?
コロナとコレクション内容に対しての関係性や影響は感じていません。環境の変化よりも私自身年齢を重ね、考え方の変化などは大きく影響があるように感じています。
フィッティングバランスや素材の特徴(軽い、柔らかい等)は大きく影響を受けていると感じています。
現在のファッションは数年前よりスタイルの垣根が少なくなってきていると感じています。そうした背景も今回のスタイリングには影響があったと思います。
--- 今後の海外展示会についての展望は如何ですか?
このような社会情勢の変化は西田さんの心境やコレクション制作にも影響を与えたのでしょうか?
今現在は日本以外の国の方が大きく感染を広げているとニュースで見ます。
世界的なワクチンパスポートの統一など政治的な部分も大きく含むので要望だけになりますが一先ず一般人が国内外の行き来に対して隔離期間が無くなり、パリへブランド側とバイヤーたちが集まるまでに回復すれば私達も常に挑戦したいと考えています。
私達の服は画像では大きなパフォーマンスを伝える事が難しいブランドだと感じているので実際に手に取って商品を感じて頂ける事をいつも望んでいます。
--- 今季のコレクションを通じて、DEVOAの作品を着る人に伝えたいことはありますか?
まず初めに今もこうして製作を継続できている事に対して、生地製作者と縫製者・バイヤー様・DEVOAに携わる全ての方々とお客様へ感謝をお伝えいたします。
ブランド側の提案は毎回色々とありますが日々の生活の中での気付きや発見の中でDEVOAの服を手に取っていただけると嬉しいです。
日常生活が変わっても日々の瞬間的な彩りを大切にし、自信が持てる人生の中にファッションも大切にしていただけたら何よりです。私自身も出来る限り精進を続けます。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
--- ありがとうございました。