
作り手の思想にフォーカスを当て、クリエーションの裏側にせまるデザイナーインタビュー企画。
今回は大阪を拠点に活動するD.HYGEN。
2019SS(春夏)から国内と並行してパリでも展示会を開催。パリで発表を経てどんなことを掴み、どんな変化があったのか。
ブランドの今後の展望についてと合わせてお聞きしました。
「STRAINISM」ストレイニズム=緊張主義をコンセプトに掲げ、作り手、着る人にも緊 張感とそこに得られる高揚感を与えるプロダクトをテーマにベーシックなスタイルを解体、再構築。
レザー、テーラードをシグネチャーとし革の開発技術、テーラー技術の繊細で徹底した作りこみ、また鉄製のオリジナル金具の持つインダストリアル工業的な硬く冷たい表情 からも緊張主義を主張する。

パリ展示会場での一枚
手応えと課題、2つの収穫がブランドのクリエーションに良い変化をもたらした。
"パリでつかんだ手応えと気付きが創作に変化をもたらした"
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ブランドを始めてから比較的早い段階でパリでも展示会を始めました。
最初に参加した時はどんな風に思っていましたか?
定兼(デザイナー)
期待もありましたがそれよりも不安の方が大きかったです。
知り合いのブランドから色々と話を聞いていて難しさも感じていましたし、私たちの作品がどう評価されるのか、というのは全くわからなかったので。
ただ、私たちのものづくりが通用するのかどうか挑戦したい気持ちが大きかったので、勢い半分でパリに参加することにしました。
--- 実際に参加してみて、手応えはありましたか?
定兼
私たちは19SSからパリで発表を始めてこれまで4回参加してきたのですが、おかげさまで最初に参加してから、海外での取扱店も増えていますし、シーズンごとにオーダーも伸びています。
世界的なトレンドの観点から見ても、私たちはそれとは全く違うテイストのものを作っている中で、「見てくれている人、評価してくれている人はいるんだ」ということも認識できて、私たちの作品は勝負できるんだという自信につながりました。

20SSのテーマ"carbonization - 炭化現象"を表現したオブジェ。
複雑なパターンを炭にした木で作っている。
--- パリに参加した前後で作品作りに変化はありましたか?
立石(パタンナー)
日本人と海外の人では人の体格や気候が日本とは大きく違うので、サイズ感の設定や素材の選び方については大きく変わりました。
今まではコンセプトを表現することにこだわりすぎて、とにかく細身でストレッチ素材も使わないという考え方だったのですが、 実際に現地のバイヤーの意見を聞いたりしていくうちに、表現と機能性の両立させるための一つとして、 そういう素材を取り入れることも必要だという風に考え方が変化していきました。
それぞれの国の購買層の体格や好みのサイズ感、着用感、気候などの色々な情報を具体的に聞けたことは、私たちにとってすごくいい経験になりましたし、手応えをつかんだ反面、私たちの課題も見えたという意味でも参加してよかったと感じています。
それともう一つは作品の展示の段階での世界観の作り方も勉強になりました。
パリは世界中からバイヤーが来ていて、まだあったことのない人たちがいっぱいいるわけで、その人にどうやって興味を持ってもらえるかというところはインビテーションの段階で興味を持ってもらわないといけない。
期間中は様々なブランドの展示会に行って話を聞いていると、シーズンとブランドの世界観をしっかり作っていくところ、つまり洋服以外の見せるところもすごく大切なんだなと感じました。
作品を見てもらう場であると同時に、ブランド自体も見てもらわなければいけないことを再認識できましたね。
そういう意味では服以外のところでも良い刺激をもらいましたし、考え方に柔軟性が出たことでクリエイションの幅が凄く広がったと思います。
海外で好評なレザー。
独自性の強さが好調なセールスに繋がっていると感じているそう。
--- 再認識できたところも含め、海外の目に触れることで収穫が大きかったのですね。
定兼
それと一つ面白いなと思ったのは、国内と海外ではバイヤーさんが手に取る商品のテイストが全く違うところです。
ファッションウィークの期間中、多くのブランドが展示会をしている中で、展示会で探すのは自分の国のブランドにはないものなのです。
自国のブランドでまかなえるようなものには興味を示さない。
他にないもの、面白いものを探しているという選び方、探し方をしていますし、そういうものが海外では評価されるんだなと感じました。
--- 例えばどんなところでそれを感じましたか?
定兼
アイテムでいうとレザー関係は海外のオーダーがすごく多くて、お客様の反応も良いと聞いています。
世界的に見てもあまりないものだと自負していますし、そういうものは高くても買いたいと思ってくれるから手に取ってくれるのかなと感じます。
グローブにしてもそうで、これは文化の違いも多分にあるとは思いますが、日本ではここ最近増えてきましたが、文化としてはあまりつける風習はないのに対して、海外、特にヨーロッパでは文化としてそういうのがあるので、ファッションのコーディネートでレザーのグローブも取り入れることがあったりと、そういう違いも感じることができました。
二人が思い描くブランドのこれから。

今後への思いを語る定兼氏。
より特別なものを製作したいという思いがある。
--- 今後ブランドの方向性としてはどのような方向に進めていくのでしょうか?
定兼
ブランドとしてはこれまで続けてきたことは継続していくつもりです。
コンセプトにある哲学は変えるつもりはないですが、その中でどんな表現でどんなものを提案していくか、というのはいい意味で予想を超えていくようなものづくりをしていきたいですし、モノが溢れている状況が続いている中で、本当に良いものの価値をもう一度示したいという思いもあります。
--- 本当に良いものの価値をもう一度示したい、というのは、例えばどんなことを考えていますか?
定兼
私の個人的な考えでいうと、現在は1シーズンで約40型ほど展開しているのですが、それを例えば10型くらいの極めてクオリティの高い作品のみに絞ったコレクションを作りたいという思いがあります。
現状ではまだまだ先の話になると思っていますが、そういうことを自信を持って提案できる体制ができれば、他では真似できない、どこにもないようなものを作りたいというのが理想です。
そういうことができないことはないと信じていますし、今後ブランドを続けていく中においてもそういうところを突き詰めて、より良いものを製作していきたいと思っています。
私たちはいわゆるニッチなものづくりしているので、商品数を増やしていくことよりも、私たちの作品が好きだと行ってくれる方達一人一人に対して、特別なものを提案するような形ができればな、と考えています。

立石氏も同様に、クオリティを突き詰めて行きたい思いが強いようだ。
--- 立石さんはいかがですか?
立石
基本的には定兼と同じ意見で、今まで以上に作品の品質を上げたいですね。
作りとしては今よりももっと良くできると思いますし、これから先も満足することなく、もの作りを続けて行きたいですね。
それを突き詰めていった先に、また新しい発見が広がっているのかなと思いますし、それを見て見たいので。
--- ブランドコンセプト”緊張主義”に通じるところですね。
立石
私たち自身が緊張感を持ったものづくりをして、手に取ってくださるお客様に少しでも喜んでもらえたら、それが私たちにとって一番嬉しいことです。
そのために私たち自身が挑戦を楽しむ気持ちを持って第一線でものづくりを続けて行きたいですね。
現状に満足したり、なんとなくで続けているようなことをしていると心に響くような作品は作れないと思いますから。

ブランドの今後にぜひ注目を。
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