THE VIRIDI-ANNEの哲学と物語が交差する
25-26AWコレクションの深層

THE VIRIDI-ANNEの2025年秋冬コレクションは、ブランドの歴史において重要な転換点となった「2008年」を現代的な視点で再解釈したものです。本記事では、デザイナー岡庭智明氏へのインタビューを通じ、コレクションの根底にある「違和感の哲学」から、人との再会によって生まれたアイテムの背景、そしてブランドの新たな進化までを紐解きます。

1963年長野県生まれ。東京造形大学で絵画を学んだ後、創作の対象をアートから衣服へと移し、独学でパターンメイキングと縫製を習得。1987年に前身となる「Caterpillar Produit」を設立し、レディースウェアを中心に展開。デザインから縫製まで自身で手がけ、アンダーグラウンドシーンで活動していた。
その後、「本当に自分の着たいものを作りたい」という純粋な思いから、2001年にメンズレーベルとしてTHE VIRIDI-ANNEをスタートさせた。
原点としての2008年 —「静かな違和感」の誕生
--- 本日はありがとうございます。今季の2025年秋冬コレクションは「2008年前後」のイメージを再解釈されていると伺いました。なぜ今、このタイミングで2008年という過去のシーズンに光を当てたのでしょうか?
岡庭: 自分の中で、それまでやってきた「THE VIRIDI-ANNEらしさ」というものが一度固まった、確立されたのが2008年だったと感じています。ブランドのひとつの転換期でしたね。
--- その「らしさ」とは、具体的にはどういったものでしょう?
昔からずっと言っていることですが、まず「静かで強い」というイメージ。それから、もう一つが「どこかに違和感がある」ということです。
すごくよく似ているけれど、『ここは別の世界なのではないか』とか、『別の世界から来た人なのではないか』と思わせるような雰囲気。ポップでも派手でもなく、いかにも「ファッション」という感じにならない中で、「あの人はちょっと違うぞ」という佇まいが表現できたら一番良いなと思っています。

--- まさに「二度見される」ような服、ということですね。その美学はどこから生まれてきたのでしょうか?
これはもう、私自身の原体験から来ていますね。私が16、17歳くらいの頃から、惹かれる服というのはそういうものが多かったんです。
着る楽しみはもちろんですが、家に帰ってハンガーに掛けて、ただ眺めていたいと思える服。そういうオブジェとしての魅力も大切にしています。
例えば、私のやっているブランド、DUELLUM(デュエラム)の服にはよりそういう側面がありますよね。着こなすのは少し難しいかもしれないけれど、そこにあるだけで強い存在感を放っている。そういう魅力に、私自身も強く惹かれます。
再解釈という現在地 — レイヤードで繋ぐ季節
--- その哲学の原点である2008年を、今回は「再解釈」されたわけですね。単なる復刻とはどう違うのでしょうか。
当時の空気感は大切にしていますが、アイテムをそのまま再現しているわけではありません。一番大きいのは、現代の空気感を取り入れている点です。昔のようにタイトではなく、シルエットもリラックスしたものになっています。
--- いわゆる「さらっと着てかっこいい」というようなムードでしょうか。
その「さりげなくかっこいい」という感覚は、実は次の26SSシーズンの方でより強く、意識的に強調している部分なんです。
25-26AWは、そこへ向かうための布石というか、秋冬らしい重厚感を残しつつも、いかにシーズンレスに近づけられるか、という点をより意識したかもしれません。これからの方向性を探るコレクションという意味合いも心のどこかにあったかもしれませんね。
--- 温暖化の影響で、季節感の表現も難しくなっているかと思います。その点についてはどうお考えですか?
それは常に考えています。理想はコレクションの半数以上がオールシーズンで着られること。ただ、それだけだと季節の楽しみがなくなってしまう。
そこで重要になるのが「レイヤード(重ね着)」という考え方です。ベースは通年着られるもので、そこに何かを重ねていくことで、シーズンが深まっていく感じになったらいいなと。
哲学は変えずに、表現方法を現代に合わせていく。そのバランスが今、一番大事なことだと思っています。



デザイナーの視点 — 個人的な思い入れと「違和感」の表現
--- 今季のコレクションの中で、岡庭さんご自身が特に気に入っているアイテムはありますか?
そうですね、いくつかあります。まず、ダウンジャケットですね。これは「どこか他の世界のっぽいな」という感覚があって、個人的にすごく好きなアイテムです。
プルオーバーのアノラック風ですが、フルオープンもできる。暑い時に前を開けて、ジップの高さが左右非対称になった時の、あの何とも言えない気負いのない佇まいが気に入っています。
あとは、レイヤード仕様のネックウォーマーも気に入っていますね。上に重ねると、普通のタートルネックとは全く違う見え方になる。アウターを羽織った時にVゾーンから覗く、あのちょっとした違和感が良いんです。
刺繍コートという「巨大なジャケット」
--- 刺繍を施したコートも非常にユニークなピースでした。
あれは、実は単なるオーバーサイズのコートではなく、「巨大なジャケット」というコンセプトで作っているんです。デザインの骨格はあくまでジャケット。ですから、「身長が2mを超える人が着たらジャケットとして成立する」くらいのバランスにしています。
それを普通の身長の人がコートとして羽織ることで、サイズの合わない服を着ているような、独特の違和感が生まれる。その感覚を狙いました。
--- なるほど。ブルゾンにも同じ刺繍が施されていましたね。
ええ。刺繍のデザインは、あるアート作品が持つ、凹凸のある有機的なマチエールから着想を得ています。ブルゾンの方は個人的に着たいなと思って自分用にも製作しました。コートのコンセプトも面白いですが、ブルゾンの方がより普段使いしやすいですからね。
縁が紡ぐクリエイション — 対話から生まれる服
KIDS LOVE GAITEとのパートナーシップ:インヒールブーツ
--- 今季はKIDS LOVE GAITEとのインヒールブーツが大きなトピックの一つになっています。
このブーツには、十数年越しの経緯があるんです。2004年頃、私が初めてインヒールブーツを作った時に、浅草の工場で担当者として一緒に試行錯誤してくれたのが、KIDS LOVE GAITEのデザイナーの山本真太郎君でした。
その後、彼が独立してからはしばらく疎遠になっていたのですが、2年前にパリでばったり再会しまして。その夜、私が他のデザイナー仲間と泊まっていたアパートに彼が訪ねてきて、「実はコム・デ・ギャルソンの靴を作らせてもらいました」と。
旧友の大きな飛躍を皆で祝福して、その時に「また彼にインヒールブーツを作ってもらいたい」と強く思いました。このブーツは、今回のコレクションを象徴する、非常に思い入れの強いアイテムの一つです。
D.HYGENとの共作と、バイヤーとの対話
--- 他のブランドとの関係性も、岡庭さんのクリエイションの重要な要素なのですね。
そうですね。例えば、グローブは前期(24-25AW)に引き続き、今季もD.HYGEN(ディーハイゲン)とコラボレーションして制作しています。私がデザインを描き、彼らの技術で形にしてもらう。信頼できる作り手との関係性は、ブランドにとって欠かせない財産です。
--- クリエイターだけでなく、お客さんとの対話から生まれる服もあるのでしょうか?
もちろんです。例えば今季のキー素材である刺繍生地を使ったシンプルなパンツ。
あれは、元々は作る予定がなかったんです。パリの展示会の初日に、ある海外のバイヤーさんから開口一番、「なんでこの生地で、シンプルなパンツがないんだ?」と鋭く言われまして。「…確かにそうだ」と。
彼の熱意に応える形で、その場で製作を決定しました。
M.A.R.S.との歴史:親指リング
--- 親指のリングも、顧客の声がきっかけで復刻されたと伺いました。
はい。あれは2008年発表のアイテムですが、長年の取引先からのリクエストで復刻しました。
あれはアクセサリーブランドのM.A.R.S.(マーズ)さんに作ってもらったもので、型取りしたのはM.A.R.S.のスタッフの方の親指なんです。
そうしたコラボレーションの歴史も、アイテムの背景の一部ですね。
未来を見つめるための原点回帰
--- 本日はありがとうございました。お話を伺っていると、今季のコレクションが、ブランドの「歴史」を縦糸に、デザイナーの普遍的な「哲学」と、個人的な思い入れや人との出会いというエピソードを横糸にして織り上げられた、非常に奥行きのあるものだと感じました。
そう感じていただけたなら嬉しいです。過去を振り返ることは、決して立ち止まることではなく、未来をよりはっきりと見るために必要なことだと感じています。ブランドの原点を再確認し、そこに新しい物語を加えながら、これからも自分たちらしい服を作っていきたいですね。
---次回は26SSコレクションについてより伺って行きたいと思います。
引き続きよろしくお願いいたします。

昔の空気、今の気分。
The Viridi-anne 26SS
デザイナーが語る「価値のない古着」の美学
イベントのご案内
The Viridi-anne | 26SS 先行予約会 & 25-26AW POPUP STORE
当日は、来季2026年春夏コレクションの先行受注会を開催いたします。 弊社で発注した商品のサンプルを実際に手に取りながら、新作をいち早くご覧いただけるだけでなく、素材の風合いやシルエットを直接お確かめいただける貴重な機会です。
DUELLUM & ISO-位相 | 25-26AW POPUP STORE
さらに、同日程でDUELLUMとISOの25-26AWコレクションも店頭に並びます。 両ブランドの希少な作品群を、実際に手に取ってご覧いただけるまたとない機会となります。
各ブランドの現在、そして未来を同時に感じていただける特別な二日間。
ぜひFASCINATE KYOTOへ足をお運びください。
皆様のお越しを、心よりお待ち申し上げております。
インタビュアー、編集 : 森崎 徹(FASCINATE)