
作り手の思想にフォーカスを当て、クリエーションの裏側にせまるデザイナーインタビュー企画。
今回は大阪を拠点に活動するD.HYGEN。
第2回の今回はブランドコンセプトと物づくりの哲学について。
独特の魅力と確かな説得力の裏には確固たる哲学が存在していました。
「STRAINISM」ストレイニズム=緊張主義をコンセプトに掲げ、作り手、着る人にも緊 張感とそこに得られる高揚感を与えるプロダクトをテーマにベーシックなスタイルを解体、再構築。
レザー、テーラードをシグネチャーとし革の開発技術、テーラー技術の繊細で徹底した作りこみ、また鉄製のオリジナル金具の持つインダストリアル工業的な硬く冷たい表情 からも緊張主義を主張する。

素材から一年をかけて製作したレザーのニット
"作り手と着用者が共有し高め合う"緊張感""
--- 緊張主義 - ストレイニズムをブランドコンセプトにしていますが、これはどういう意味を込めているのでしょうか?
定兼(デザイナー)
このコンセプトには2つの意味があって、一つは私たちの作品を着てくださるお客様にとって、もう一つは私たち自身にとってのことです。
今のトレンドには、気取らない感じだとか、ワードローブの中からさっと選んで気軽に着られるようなものが好まれている傾向がありますよね。
もちろんその良さも理解しているつもりですが、私たちが提案したいファッションはそういうものとは真逆で、リアルクローズではあるけれど、そういう選び方で着るようなものではない。
誤解を恐れずに言えば着ることに対して肩肘の張る服だと思っています。
万人受けするようなデザインではないですし、 そういう洋服を着ることで、いつもの日常とは違う特別な洋服を纏っているという高揚感や、選ぶこと、着ることの楽しさを感じてもらいたいと思っています。
立石(パタンナー)
もう一つは作り手である私たち自身が製作するときに感じている緊張感を作品に反映させる、という意味も込めています。
お客様にとって特別なものであるからこそ、私たち自身も緊張感を持って製作していますし、それを感じれもらうためには細かいところまでこだわって製作しないとそういうことを感じてもらえない、一つでも手を抜くとすぐわかってしまう。
そういう意味で私たちも緊張感を感じながら作っているということが作品に反映された洋服を作ることで、着た時に特別感を感じてもらう。
それが着る人に伝わるような洋服作りをしていきたいということですね。
この2つが私たちのブランドコンセプトです。

シグネチャーアイテムであるテーラードジャケットとレザー。
2つのアイテムはブランドコンセプトを端的に表現しているアイテムだ。
--- テーラードジャケットとレザーをシグネチャーと位置付けていることとコンセプトにはどんな関係があるのでしょうか?
定兼
まず、テーラードジャケットでいうと、メンズの服の中では最もベーシックであり、一つの完成形だと考えています。
上下で着用すればスーツになり、ビジネスやフォーマルなシーンでも着用するものです。
製作の面で言えば、手間もかかるし、技術がないとしっかりしたものを作るのが難しいアイテムです。
レザーに関しても、男性のワードローブの中で定番であり特別な一着だという位置付けですし、私個人として、レザーという素材の可能性に大変魅力を感じているというものあります。
毎シーズン新しいものを開発する中で、特に面白さを感じていますし、新しい発見も多く、まだまだ可能性を追求していきたいという意味でも、ただ緊張感を持って取り組める点にも着目しています。
--- アイテムの位置付けと素材の面白さの両面で魅力を感じているということですね。
立石
その通りです。
それに加えて、私たちは作品にはパターンや生地はもちろん、副資材からオリジナルで製作するものが多く、裁断から縫製まで一人の職人さんが全ての工程を一人で仕上げるのですが、それ自体に意味があるのではなく、クオリティーも伴って初めて意味があると考えています。
そうでないとお客様にとって特別なものになり得ないと思っていますし、そういうものでないと先ほど言った高揚感や選ぶ楽しさは感じてもらえないとも思っています。
そういうアイテムをシグネチャーにすることで私たち自身も、作品作りに関わっていただいている職人さんも含めて、常に緊張感を持って製作に臨まなければならない状況を作ることに繋がっていくと考えています。
素材から一年をかけて製作したレザーのニット
--- これらの考えは前回お話ししていただいた1年間で培ったものでしょうか?
立石
その1年間は試行錯誤の時期だったので、パターンから素材開発まで、失敗もいくつもありましたし、私たちの表現したいものを100%表現するために必要なものとは何かということを知るためにとことん突き詰めようと思っていたので、レザーの加工から芯地に至るまで色々なことを考えて試作を繰り返していました。
そこでの発見や気づきが今の作品作りの元になっていますし、私たちの作りたいものの方向性やシルエット、パターン、素材から男性の服に対する考えの原点はそこで構築した哲学が根底にあります。
時代によって変化は必要だということは私たちも承知していますが、確固たる土台がないとそういうこともできないなと感じましたし、それがあるからこそブランドとしてはっきりとした色を出せるんだということを認識できた時間だったと思います。
--- そこで行き着いたのがオリジナルで製作することにも繋がった。
定兼
そうして試行錯誤するうちに、結局私たち自身でそこまでしないと100%のものは作れないという考えに至りました。
それは今も変わっていないところです。
最近のものでいうと20-21秋冬で製作したレザーのニットも、レザーの細い糸の開発から始まって、一年がかりで製作しました。
細くて長い糸状のレザーで納得できるものがなかったのですが、アイディアが浮かんだ時にはどうしても製作したかったので、ないなら私たちで開発しようということになって。
デザインは日常、経験、そして二人の感性によって作られる
作品は共同作業で作り上げていく。
妥協のない作品は、草案から明確な共通認識を持って制作される。
--- そういったデザインのインスピレーションはどういったところから得られるのでしょうか?
定兼
ありきたりかもしれませんが、日常の全てですね。
ただ、何かの洋服を見てインスピレーションを得る事はなくて、何気ない出来事や趣味、自分の経験してきた事から得る事が多いです。
ここ4シーズンはブランドのコンセプトである緊張主義をより明確に表現するための手段としてシーズンテーマを決めて製作しているのですが、それも同じように、日常のなかからふと思い浮かんで膨らませていきました。
--- そのインスピレーションをデザインに落とし込んでいくのはどんな時でしょうか?
定兼
デザインを特定の時期に集中的に考えるということはあまりなくて、常に考えている中で、ふと思い浮かんだものをシーズンテーマとコンセプトに沿って落とし込んでいくことが多いです。
パターンなのか、素材のテクスチャなのかを考えるのは私の仕事なのですが、私たちはパターンもデザインの一部だと考えているので、そこは立石にイメージを伝えて、思い浮かんだデザインについて意見交換をしながら製作していきます。
新しいアイデアをパターンに反映していくかで、デザインが決まっていくことも少なからずありますし、私たちの服に構築的なものが多いのは、デザインの一部として考えているという側面も反映されているからです。
--- パタンナーとしては形にしていく上でどういったことを考えていますか?
立石
定兼からデザインのアイディアを聞いた上で、彼が作りたい作品を表現することをまず第一に考えていますが、構造的に着心地が悪かったり、彼が表現したいシルエットができそうにない時には私もそれに対して意見を述べて、二人で練り上げていくようにしています。
そこからサンプル作成の前にトワールを組んで一旦形にするのですが、パターンがデザインに含まれているので、その段階までいってから本格的にデザインが始まるというイメージですね。
逆にそこまでいかないと私たちの服は作れないので、実際にデザインが完成するのはこの時です。
私たちはここを非常に重要視していて、新しいアイディアが生まれたり技術の開発にも繋がっていく工程でもあるので、どんなに簡単なパターンでも私たちとしては省くことができない必要不可欠な工程です。
--- デザインや造形からくる雰囲気はそうして作られていくわけですね。
定兼
以前パリの展示会に来ていただいた方に「彫刻のような服」と言われたことがありました。
私たちが作りたい服は、ハンガーにかかっているだけで重々しい雰囲気があって、そういうものを作りたいと思っていたので、雰囲気を表すという意味では私たちの作品を象徴するよう言葉なのかなと思います。
私たちの作りたいものは平面とは対極にある洋服なので、今後もそう言ってもらえるような作品を作り続けていきたいですね。
20-21AWのパリコレクションの様子。
立体的な造形が際立つレザージャケット。