DEVOA デザイナーインタビュー

静寂の中にある美しさDEVOA 西田大介が語る、26-27AWコレクションと探求の現在地

2026年10月6日

グレー系のテーラードジャケットを着用したルックの上半身

作り手の思想にフォーカスを当て、クリエーションの裏側にせまるデザイナーインタビュー。今回は、26-27AWシーズンのDEVOA(デヴォア)です。

今季のテーマは「PIANISSIMO(ピアニッシモ)」。映画『戦場のピアニスト』から着想を得て、ミリタリーを基盤に、静寂と美しさを表現したコレクションです。

その静けさの裏側には、「二度とやることはない」と振り返る手織りのシルクや、1〜2cm単位の検証がありました。色の決め方から、解剖学に基づくパターン設計、国内外の職人との素材開発まで、デザイナーの西田大介氏にたっぷりと伺いました。(2026年9月3日、オンラインにて)

DEVOAのデザイナー、西田大介氏
DEVOA デザイナー 西田大介氏

DESIGNER PROFILE

DEVOA / 西田大介

人体の構造や医療について学んだ後、独学でパターンメイキングを習得。2007年にDEVOA(デヴォア)を設立。解剖学の知識を基に、身体にストレスを与えない着心地と造形的な美しさを両立する衣服を探求しています。

素材開発からパターン設計まで、国内外の職人とともにものづくりを追求。今季26-27AWでは「PIANISSIMO」をテーマに、静寂の中にある美しさを表現しています。

CONTENTSこの記事の目次

濃い色の短いジャケットとワイドパンツを合わせた全身ルック
DEVOA 26-27AW コレクションルック

CHAPTER 01

「PIANISSIMO」——映画から着想した静寂と、アーミーグレー

今季のテーマを「PIANISSIMO」にしたのは、なぜですか。

基本的には毎回ミリタリーをベースにデザインを着想していますが、今回はより綺麗なイメージの服を作りたいと考えていました。

そんなときに、以前から好きで何度も観ている映画『戦場のピアニスト』を改めて観直したら、自分が考えている雰囲気と重なる部分が多かったんです。そこで感じた色合いや空気感を形にすることからスタートしました。

「ピアニッシモ」というテーマ名に込めた意味を教えてください。

映画に登場するピアニストそのものではなく、戦争という状況下にある「静寂」や、ミリタリーでありながらも落ち着いた雰囲気、美しさを表現したかったんです。その「静寂」を表す言葉として「ピアニッシモ」が合っていたので、テーマにしました。

コレクションの最初に決めたという「アーミーグレー」は、どのような色ですか。

映画に登場するユダヤ人の服のカラーや、ロシア軍・ドイツ軍の軍服の色をイメージして設定しました。ただ、グレーは非常に繊細な色で、黄色、緑、青、赤の要素の強さによって何十種類にも変化します。

自分が思う色を想定して、各工場にビーカー〔注:色を確かめる試験染め〕の作成を指示しました。しかし、ウール、コットン、シルクなど素材(組織)によって光の反射率が異なり、見え方もまったく変わります。生地ごとに何度もテストを重ねて色を出し、それをまとめる作業が最も困難でした。

数シーズン前からのテーマ設定は、海外のお店の要望がきっかけですか。

海外からの要望でテーマを決めている、ということは一切ないですね。あくまで自分が作りやすいように設定しているだけで、テーマに縛られて制作したことは一度もありません。

前のシーズンの「AESTHETICISM」と今季に、繋がりはありますか。

シーズンごとのテーマの繋がりも、全くないです。

大まかな色や雰囲気といったデザインの軸はテーマに沿わせますが、服の根幹である「パターン(型)」は、テーマとは完全に切り離して考えています。パターンは独立した研究の「途中経過発表」として毎シーズンアップデートしていて、その2つを融合させているだけなんです。

グレー系ジャケットとパンツを合わせた全身ルック
DEVOA 26-27AW コレクションルック

CHAPTER 02

「プロにしか分からない細部に美学を隠す」——肩、肘、膝のパターン

空間を大きく取る部分と、身体に沿わせる部分が一着の中に同居する、今季のフィット感について教えてください。

メンズウェアの印象は、ポケットやラペルよりも「肩のフィット感」が大きく影響すると考えていて、現在はその肩のフィットバランスにフォーカスしています。

例えば、定番のGUIDIのレザージャケットのようなレギュラーフィットは、全身を特殊な箇所で絞る立体設計です。一方、今季のボマージャケットなどは肩回りだけを緻密に設計し、ほかは意図的に平面的なパターンにして、厚みが薄く見えるように作っています。

この新しい肩回りのパターンは、どんな体型の方に向いていますか。

ある程度の普通体型の方や、体を鍛えている方には非常にフィットする、骨格的な設計です。後ろネックを高く、肩傾斜をきつく設定しているので、特に厚みのある外国の方の体型には非常にフィットすると言われています。27年春夏コレクションに向けても、すでに同様に肩回りのフィッティングバランスを考えて制作しました。

肩まわりはすっきりしているのに、着ると余裕があります。パターンでは何をされているのですか。

袖幅(山幅)を細くすれば美しく見えますが、人間の身体に近づけすぎると着心地(可動性)が悪くなります。ある程度フィットしたバランスを体感してもらいながら、動きやすくゆったりとした着心地を実現する。そのために、服の厚みやバランスを非常に特殊な設計にしています。

具体的には、パターン上の「肘関節の想定位置」を変えています。レギュラーフィットでは腕が長く見えるよう若干上げ、ルーズフィットでは大幅に下げるなど、独自のアプローチでドレーピングを制御しているんです。

パンツの「膝位置」も、脚を長く見せるために実際の膝より上に設定しています。本来は膝裏に入るシワ(ドレーピング)を腿裏に持ってくることで、人間の視覚がそこを膝と認識する設計です。

約2年ぶりに復刻・改良された「クワガタパンツ」についても教えてください。

過去のデザインを現在の考え方でアップデートしていて、裾を独自の形状に変えるなど、細かい部分を変更しました。

前から見るとフラットで、後ろは非常に立体的に作っています。ドレーピングの操作で膝のシワの位置をコントロールし、体感的に脚を長く見せる設計です。ハンガーに掛かった状態では太く見えますが、実際に穿くと非常に細身に感じられると思います。

片脚を開き腕を曲げた濃い色のジャケットとパンツのルック
DEVOA 26-27AW コレクションルック

CHAPTER 03

「軍服のクラシックな組織」——サージとギャバジン、REDA、絣染め

素材について伺います。今季の生地づくりは、どんな考えから来ていますか。

「ピアニッシモ」という綺麗なイメージに合わせて、軍服のクラシックな組織であるサージや古ギャバジンをベースにスタートしました。一方、インドの手織り生地などはものすごく時間がかかるので、テーマが決まる前から先行して開発を進めています。

定番のウールギャバジンは、今季どんな意図で使われたのですか。

コットンギャバやウールギャバはブランドのデビュー時から使っていて、クラシックな組織なので、特別な意識はないですね。

ただ、ここ2年ほど採用が増えている背景には、世界のメゾンに生地を供給している日本の毛織物屋さんとの付き合いが深く影響しています。細番手〔注:細い糸〕のウール系やサージなどを非常に得意とされていて、優れた生地を提案していただけるので、使う機会が増えています。

イタリアのREDA社との生地開発はいかがでしたか。

前シーズンのスーパー120から、今季はさらにクオリティを引き上げました。最高級ライン「スーパー160」のウォッシャブルウールと、ボンディング生地を採用しています。

通常、ウォッシャブルウールは防縮のためにスケール(鱗)を除去するので、ウール本来のタッチが劣化します。でも、REDA社の「GOAT」は最高級の原材料を使っています。高い抗菌性と通気性を持ちながら、ナチュラルなウールと遜色のない優れたタッチを実現しています。

ナチュラルストレッチが効いていて、非常に着心地が良い生地です。ただ、生地が伸びる特性上、アイロンでのアタリ〔注:熱や圧で表面に出る跡〕がつきやすく、縫製工場での仕立ては非常に困難です。縫製する糸も、伸度のあるものを使う必要があります。

静岡県遠州地方の「絣(かすり)染め」についても教えてください。

約2年前から取り組みを始めました。絣染めは、着物を作るうえで始まった糸染めの技法です。色をスポット的に付着させて染まっていない部分を残し、染料を「かすれ」させる。その糸を織り上げると、特有の「メランジ(杢調)」の組織になります。直接現場に入って、職人さんと交渉しながら、生地の完成した雰囲気を相談しています。

表面に織り柄の見えるジャケットとパンツのルック
DEVOA 26-27AW コレクションルック

CHAPTER 04

「二度とやることはない」——インドの手織りと、職人との対話

今季採用されたインドの手織り生地、エリシルクとカディコットンについて教えてください。

エリシルクは高級シルクですが、繊維長が非常に短いという特性があります。そのため、糸にして手織りすると、織り上げたあとに表面から大量の毛が吹き出てしまうんです。

それを解消するために、生地を日本国内に持ち込んでから、表面を火で炙って毛羽を焼き落とす「毛焼き(けやき)」という特殊工程を計2回繰り返しました。さらに軽い樹脂コーティングを施して、生地を完成させています。着用を重ねるうちに徐々に揉み込まれて柔らかくなる、その自然な状態を目指したので、量産品は意図的に少し硬めの質感に仕上げました。

漆黒を表現するための染色も、非常に困難でした。通常の染工場にある樽で回すと、生地が毛玉だらけになってしまいます。そこで、着物の世界でシルクを専門に扱う職人さんに「掛け染め」を依頼しました。竿に掛けて、デリケートに染料をかける伝統技法です。シルクは油分が多く染料を弾きやすいため、鉄分の多い特殊な水や染料を使い、時間をかけて染め上げています。通常の3倍の費用と大変な手間がかかる生地です。

「二度とやることはない」と思うほど過酷な開発でしたが、服飾のプロが見れば驚くような特殊な生地が完成しました。

時間も手間も、相当かかっているのですね。

実は、手間とコストがあまりに過酷だったので、当初は減産(ドロップ)をしようと考えていました。ところが、バイヤー側から「絶対にキャンセルしたくない」と猛反発を受けまして。急遽、インドの職人さんに倍近い追加の手織りを依頼しました。手織りゆえのブレを均一に揃える作業には非常に苦労しましたが、店頭でも争奪戦が起きるほどの反響がありましたね。

カディコットンはいかがでしたか。

現地の工場にベースになる組織があったので、「どの糸を何色で染めるか」「どのピッチで差し込んで織るか」という精密な設計指示を投げて、手織りしてもらいました。原料自体は、日本には存在しない特殊なものです。

そこまでして手織りの生地を採用する理由は何でしょうか。

機械織りでは出せない独特の膨らみや風合いがあって、ほかでは代わりがきかないからです。

生地のトラブルが多く、本来はやりたくない仕事です。でも、インドの職人さんたちは、納期の遅れなどがあっても一生懸命取り組んでくれる。彼らの手織り技術を継続させるサポートという意味でも、オーダーを通じて彼らを生かす一助になりたい、というモチベーションがあります。

大事に作られたものには、作り手の思いや愛情が宿ります。それが商品を通じてお客様に少しでも伝わることも、商品の魅力であり、商品を大切にする理由になると考えています。

仕事の根底にある人との繋がりを、どのようにお考えですか。

人との繋がりは、最優先事項として捉えています。そもそも「DEVOA」というブランド名自体が、「DEVOTA」と「DEVORTION」を組み合わせた自分の造語なんです。

「作る側の思いやり(愛情)」と「買う側の愛着」という考え方を融合させています。作り手が愛情を持ち、受け取った側が愛着を持って商品を愛する。そういう相互の好影響を目指しています。

表面に模様の見える濃い色のコートとバッグのルック
DEVOA 26-27AW コレクションルック

CHAPTER 05

「イメージの線を軽く引く」——モッズコート、裏地、二段染め

「PIANISSIMO」の穏やかさとミリタリーは、アイテムの上でどう両立させましたか。

避難するイメージから、意図的に生地を何重にも重ねる設計をしました。大きなモッズコートは、ベースがドイツ軍のスナイパーコートです。ただ、そのまま再現するのではなく、あえてAラインでコンパクトに仕立てるデザイン操作をしています。

今季のルックにはストーリーを感じました。意図された見せ方を教えてください。

テーマを前面に出しすぎず、ブランドの軸であるミリタリーベースを崩さないように、自分の前にイメージの線を軽く引く。そのくらいのバランスで、ピアノ演奏時のダブルジャケットなど、好きな映画のスタイルを無意識のうちに落とし込んでいます。

一方で、ボマージャケットの裏地のフェードプリントは、映画のイメージを完全にコントロールして作りました。下地の非常に綺麗なストライプの上から、わざとフェードをかけたプリントを二重に施しています。「奥側に高貴なものを置きつつフェードをかけて汚す」という、古着のようなイメージを形にしました。

Tシャツなどに用いられている二段染めについても教えてください。

15年ほど前の初期コレクションから続けている手法ですが、色のコントロールが非常に難しい技術です。

下地の色が、上から被せる炭に侵食されてしまいます。そのため、狙った色を出すには、下地に極端な色を仕込む必要がある。「チョコミントアイスのような色」や、非常に明るいブルー、ショッキングピンクといった色です。2つの異なる濃度を混ぜて染めるので、実際に染めてみないと正確な色が分からない難しさがあります。

フードを重ねたロングコートと小さなバッグの全身ルック
DEVOA 26-27AW コレクションルック

CHAPTER 06

「自分が完璧に満足し納得するもの」——着用テストとサンプル制作

今季、ご自身がいちばん気に入っている一点はどれですか。

すべての製品が自分の子供のようなものなので、1番を決めるのは難しいですね。ただ、最も手がかかり苦労したという意味では、「エリシルク」の製品です。

着用テストは、どのように行われていますか。

自分が普段着ないようなデザインのものは、絶対に作りません。

制作した製品は、バイヤーと同じように個人オーダーのプロセスを通しています。そして2ヶ月スパンで着る服を変えながら、一般のお客様が気づかないような1〜2cm単位の極めて微細な利便性を検証し、修正を繰り返すんです。この体感を伴う修正作業そのものが自分の重要な仕事の一環で、製品のクオリティを維持するために必要な作業です。

サンプル制作や開発スケジュールに対する姿勢を教えてください。

「お客様のため」という綺麗事ではなく、「自分が完璧に満足し納得するもの」を作ることこそが、最終的にお客様の満足に繋がると信じています。自分が納得していなければ、製品に自信や説得力は生まれません。

展示会を「試合」に例えるなら、そのためにたくさん練習(サンプル制作や改良)をしたほうが良い、という考えです。生地の製作は特に時間がかかるので、1年前から制作に入ることも珍しくありません。たくさんの失敗もありますが、その失敗も自分にとっては貴重な経験です。

両手を前で合わせた濃い色のジャケットとパンツの全身ルック
DEVOA 26-27AW コレクションルック

CHAPTER 07

「真摯なモノづくりに対する姿勢を継続する」——お客様へ

最後に、読んでくださっているお客様へメッセージをお願いします。

多くのブランドがある中でDEVOAを選び続けてくださるお客様やバイヤーの皆様がいて、自分はブランドとして活動できています。まず大前提として、深く感謝を申し上げます。

ブランドとして、自分たちなりの真摯なモノづくりに対する姿勢を継続すること。それがお客様に喜んでいただけることだと思いながら、制作を続けたいと思っています。

いつも本当にありがとうございます。

濃い色のフード付きアウターとショートパンツ、ブーツのルック
DEVOA 26-27AW コレクションルック

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