クリエイションの源泉とファッション観
そして2022SS COLLECTION “GLANCE”について
作り手の思想にフォーカスを当て、クリエーションの裏側に迫るデザイナーインタビュー。
今回はANNASTESIA 名古屋店で取り扱いのあるKLASICA(クラシカ)のデザイナー河村耕平(かわむら・こうへい)氏にお時間をいただき、全3回に渡るインタビューを行いました。
第3回は河村氏のクリエイションの源泉に迫るとともに、2022SS COLLECTION “GLANCE”への想いを語っていただきました。
「ファッションというよりも、スタイルを作り上げたい」というヴィジョンのもと、2006年から東京を拠点にクリエーションを続けるブランド。
「世界中のヴィンテージウェアや、各時代を代表するようなモードファッション、アートなど様々なジャンルや思想、時代背景などの要素をミックスした服作りが特徴。確かな個性を持ちながらもあくまで「着る人が主役になるスタイル」を提案している
クリエイションのためのインプットはどこから?「ファッションは見ないけど、街の人はよく見ます」
--- 河村さんは15〜16年間にもわたってクリエイションを続けていますが、服作りをする中で一番楽しい時間はいつですか?
ふと思いついたアイデアが形になっていくのを感じるときですね。僕はデザインを考えるとき、思いついたアイデアをひたすらA4の裏紙に描き続けるんです。
「ここはこうなってて、こっちはこう。この部分はこう」みたいなことを考えながら、同じような絵を延々と描き続ける。
そうしていくうちにバラバラだった素材が徐々に収斂(しゅうれん)していくのがわかるんです。ディテール、サイズ取り、裾や袖や裏地の始末なんかもそうやって決まっていきます。その瞬間がとても面白くて。
--- パズルがハマっていくようなイメージですか?
いやパズルというよりは、汚れ落としをしていくような感じですね。ものすごく汚いバイクを磨いていくうちに、ピカピカのボディが姿を現すみたいなイメージ。
--- アイデアのインプットはどのように行なっているのですか?
今のファッションのメインストリームみたいなところはあまり見ないのですが、街の人を見たり、古着屋さんに行ったりはしますね。
--- 街の人のどんなところを見るのでしょう?
ふと目で追ってしまうような着こなしをしているような人は、ついじっと観察して覚えようとしてしまいますね。
それはファッショナブルな人でなくてもよくて、いわゆる大阪のおばちゃんと呼ばれるような人たちや、何の仕事をしているかもわからないようなおじさんでも構わないんです。
自分の目に映った時に「あの人面白い!」と思うかどうかが大事で
--- 古着屋さんはやっぱりヴィンテージショップを見にいくのですか?
ヴィンテージショップは基本的に「○○年代の○○のこのディテールが見たい」など何か目的があって見にいくことが多いですね。
あとはオーナーのセンスでなんでもないものに新しい価値を見出しているお店には、出会いを求めて行くことが多いです。「何か面白いもの出てこないかな」という感覚ですね。
ああいうお店はフリマで1,000円で売られていたようなものも、オーナーが価値があると思えば5万円にもなり得る意外性があります。自分の中にはない価値の見方を知ることができるんです。
--- 古着屋さんはやっぱりヴィンテージショップを見にいくのですか?
ヴィンテージショップは基本的に「○○年代の○○のこのディテールが見たい」など何か目的があって見にいくことが多いですね。
あとはオーナーのセンスでなんでもないものに新しい価値を見出しているお店には、出会いを求めて行くことが多いです。「何か面白いもの出てこないかな」という感覚ですね。
ああいうお店はフリマで1,000円で売られていたようなものも、オーナーが価値があると思えば5万円にもなり得る意外性があります。自分の中にはない価値の見方を知ることができるんです。
--- リサイクルショップ系の「なんでも売ってます・買ってます」というお店にはあまり行かない?
ときどき行きますよ。ある意味図書館のような使い方をさせてもらっています。
例えばベタなスウェットやワークパンツのディテールが見たい時には、そういうお店に行きますね。
KLASICA・河村氏のクリエイションの“作法”
--- ヴィンテージウェアを始め、そうやってインプットしたアイデアをデザインに落とし込む時に意識していることはありますか?
今までのインタビューでもちょくちょく出てきている言葉ですが、さじ加減は大切にしています。
僕はヴィンテージが好きだと言っても、コピーを作ることは滅多にありません。名前も出自もわからないようなもので、あと何回か着たら崩壊するようなコンディションだけど残しておきたいと思ったら、丁寧にパターンをトレースしてモデルにする時はあります。
でもそれ以外は、自分で起こしたデザインをベースにして、ヴィンテージから引用してきたディテールを乗っけるというやり方をすることが多いです。
その過程でミリタリーとかワークとか、ハンティング、ドレスの要素を混ぜて混ぜて混ぜて……という作業を繰り返します。結果として、さじ加減次第でミリタリーに寄ったり、テーラーに寄ったりするというイメージです。
--- そのさじ加減が失敗することはあるのでしょうか?
やっぱりありますよ。「ちょっと真面目にやりすぎたな」とか、その逆もある。
当初はうまくいきそうだと思っていても、デザインも決まって、パターンもできて、生地も仕入れて、サンプルも作ったけど、このモデルはダメだ、コレクションには入られないというケースもあります。
--- 妥協しないんですね。
コレクションに合わないものを無理やり入れても良いことはないですからね。諦めて眠らせるしかないんです。
お金も時間も無駄になるので、なるだけそういうことは起きないようにしていますが(笑)。
「KLASICAを見た人が楽しんでくれるのが一番」クリエイションの原動力
---
KLASICAを始められて15〜16年経つわけですが、毎シーズン新しいクリエイションを続けることは並大抵の仕事ではないと思います。
河村さんにとって、クリエイションの原動力となっているのは何なのでしょうか?
バイヤーの方にしろ、エンドユーザーの方にしろ、KLASICAを見た人が楽しんでくれるのが一番の原動力です。
展示会でバイヤーの方が「予算の都合上どうしても選ばなきゃいけないけど、本当は全部仕入れたい」と言ってくれたり、年に何度かあるイベントでエンドユーザーの方と直接話してリアクションが見られたりすると、やっぱり嬉しいものですから。
その辺りは、第2回で話した初めて自分で作った洋服が売れた時と変わっていませんね。
--- KLASICAはFLAGSHIPSHOPを下北沢に構えていますが、それもエンドユーザーからのリアクションを得るためという意味合いがあるのでしょうか?
おそらく東京で一番小さい洋服の店舗だと思うのですが(笑)、KLASICAと社会をつなぐ窓口としての役割はあると思っています。
僕の印象では、東京はメジャーなブランドを取り扱うお店の方が圧倒的に多くて、うちのようなブランドはどうしても埋もれてしまいがちです。
でもお店があれば、KLASICAがどういう洋服を扱っていて、どんな世界観を表現しているのかを直接伝える窓口になります。事務所やアトリエにこもっていると、どうしてもそこで完結してしまうので。
お店をやるから良い、やらないから悪いという話ではなくて、単に僕の仕事の仕方がそういうスタイルなんだと思います。
「“中心”はパリでも東京でもなく、着る人自身」河村氏のファッション観
--- 2012年頃からパリでも展示会をされていますが、河村さんにとってパリはどんな街ですか?
前職でも何度か出張で行かせてもらっていましたが、思い描いていた綺麗なパリに対して現実は意外と汚かったりして、最初はあまりピンと来ていなかったかもしれません。
ただコロナ禍になって行けなくなってから、自分がここ5〜6年でパリのことを好きになってきていたことに気づきました。半年に1回のペースで行っていたわけですが、それがすごく楽しみだったんですよね。
--- パリのどんなところが好きなのですか?
空気なのかな。特別なことをしなくても良くて、あの街に身を置いて、街を眺めているのが好きなんです。
半年東京にいると、どうしても自分の感性が日本的なところに戻っていきます。でもパリに行くと、もともとあちらのクリエーションが好きなこともあって感覚がチューニングされるのを感じるんです。
--- では河村さんにとっても、やはりパリは世界のファッションの中心地ですか?
それはあまり思いません。どこかが、あるいは誰かがメインストリームとしてあるのではなく、土地それぞれ、人それぞれのファッションや生活があると私は考えています。
僕はファッションの中心というものがあるとすれば、それはパリでも東京でもなく着る人自身だと思っています。
だからKLASICAの洋服も、着る人の魅力が引き立つようなものであればいいなあと願っています。どんなロケーションでも悪目立ちせず、スッと馴染む服作りをしているのもそのためです。
ただ、たくさんの洋服がある中でKLASICAのものを選んでもらうためには、どうしてもそれなりの個性が必要です。この2つの要素のせめぎ合いが、さっき話したさじ加減に通じてくるのかもしれません。
2022SS COLLECTION “GLANCE”について
--- 2022SS COLLECTION “GLANCE”についてお聞かせください。まずテーマの“GLANCE”とはどのような意味でしょうか?
“GLANCE”はきらめきや一閃という意味の英単語で、take a glance at〜で〜をちらりと見るという意味の熟語になります。
僕の場合コレクションのテーマは、最初から決まっているケースと自然と作り始めているうちに後から決まるケースがあります。今回のコレクションは後者なんです。
いつの間にか作り始めていたんですが、集まったアイデアやデザインを見てみると統一感がなく、かなり散漫だった。
でも今回はあえてそれで良いんじゃないかと思ったんです。無理に1本芯を通さず、ちらりと目に入って気になったものをバラけたまま構成してみよう、と。
だから見る人が見れば「なんでこの素材のラインとこの素材のラインが同じコレクションに並んでるんだろう?」と感じるはずですが、今季はその不整合さを良しとしたシーズンなんです。
--- 言ってみれば玩具箱みたいなコレクションなのですね。河村さん個人が気に入っている生地はありますか?
DRY BLACK BACK TWILLですね。強く撚り合わせた糸を使って織ったコットン100%の生地なんですが、光を吸い込むような深い黒で一見するとウールのようにも見える素材です。
何も気にせずガンガン洗えるうえに、糸を強く撚り合わせることでシワになりにくいという特長もあります。肌離れがいいので夏も快適に過ごせます。
今までのSSシーズンは黒のリネンを使うことが多かったのですが、新しい夏の素材として優秀な素材が見つかったと思っています。
--- お気に入りのアイテムはありますか?
KLINGという名前をつけたジャケットですね。DRY BLACK BACK TWILLのバージョンと、コットン53%・シルク24%・リネン23%で構成されたORIGINAL PATTERN GLEN CHECKという生地のバージョンがあります。
このジャケットは、実は僕が初めて作った裏地なしのジャケットなんです。
やっぱり脱いだ時に裏地があった方がモノとしては美しいので、今まではずっと裏地か半裏をつけてきたんですが、今季は一回裏地なしに挑戦してみようと思って作りました。
あとはGOSSEという新型パンツも気に入っています。
--- どんなパンツですか?
ディテールの少ないシンプルでゆったりとしたバレル型のパンツです。生地はKLINGと同じDRY BLACK BACK TWILLとORIGINAL PATTERN GLEN CHECK。
とにかくシルエットで勝負したいと思って作ったパンツなのですが、すごく良い仕上がりになりました。ぜひKLINGとセットアップで試していただきたいですね。
--- 2022SS COLLECTIONをデザインするにあたって、一番大切にしたことは何ですか?
重量です。KLINGが裏地なしのジャケットになったのもそのせいなのですが、全体でもなるべく軽くすることを心がけました。
--- それはどうしてですか?
夏が長くなってきている感覚があるからです。日本で言えば、もう10月くらいまで夏が続いていますよね。
だからSSコレクションのアイテムは、夏物として着る期間が長くなっていると思うんです。
今までは春物と夏物を分けて作っていたんですが、それをやめてほぼ全部夏物として着られるイメージでデザインしました。なので、どのアイテムも比較的長く着ていただけるはずです。
--- では最後に、2022SS COLLECTIONを通じて着る人に伝えたかったことをお聞かせください。
基本的に着こなしや着て感じること、着て過ごす時間みたいなところは、着る人それぞれに委ねています。先ほども言ったように、KLASICAはあくまで着る人が中心の洋服を作っているからです。
ただあえて言うとすれば、2022年の春夏は2021年よりもファッションを楽しみませんか、というところでしょうか。
2021年の夏はコロナ禍だったこともあり、Tシャツとショーツだけで過ごした人も多かったはず。今年ももしかしたらそうなるかもしれません。
もちろんサイジングや素材なんかで着ている本人はリラックスしていて良いのですが、あえてTシャツとショーツをやめてみる。ブラックパンツにホワイトシャツを着てサラリと軽いジャケットを羽織る。そんなキリッとした着こなしをしても楽しいと思うんです。
僕が何か伝えたいとしたら、そこですね。
--- おしゃれをする喜びを与えてくれるコレクションになりそうで、今からとても楽しみです。河村さん、今回は長い時間お付き合いいただきありがとうざいました。