作り手の思想にフォーカスを当て、クリエーションの裏側に迫るデザイナーインタビュー。
今回はFASCINATE_THE Rで取り扱いのある台湾のブランドCHIAHUNG SU(チャンホン・スー)のデザイナー蘇家紘(チャンホン・スー)氏にお時間をいただきインタビューを行いました。
第1回は、ブランドを立ち上げるまでの経緯や、ブランドのコンセプトなどについてお話を伺いました。
台湾で服作りの基礎を学んだのち、数年間メンズスーツのオーダーメイドに従事、その後渡英してロンドン・カレッジ・オブ・ファッションでメンズウェアのデザインを学び、ファッション・デザイン・テクノロジー修士号を取得。
2020年にデザイナー自身の名前を冠したブランドを設立し、ロンドンコレクションでデビュー。
台湾からロンドンへ。ブランド立ち上げまでの歩み
--- ブランドをスタートしたのはいつですか?
2020年からスタートして、24SSで4年目になります。
--- ブランドを始める前は何をしていましたか?
台湾で6年ほどメンズスーツのオーダーメイドに従事しながら洋服づくりの基礎を学び、その後ロンドンのLCF(ロンドン カレッジ オブ ファッション)に入学しました。
--- なぜ留学先にロンドンを選んだのですか?
イギリスはスーツの起源となった国で、その中でもロンドンはサヴィルロウがあるように、メンズスーツの世界では歴史も伝統もある有名な場所ですし、台湾にいた時から憧れていた場所でもあります。
その中でLCFを選んだのは、衣服を作るためのより実践的な技術を学べると思ったからです。
--- ブランドをスタートさせたきっかけを教えてください。
幸運にもLCFからロンドンファッションウィークに参加する学生に選ばれて、その後パリのショールームにも参加し、そこから本格的にブランドを立ち上げました。
オーダーメイドスーツは決まったデザインをお客様の体型に合わせて作るので、すでに完成形が決まっているものです。
お客様のニーズに合わせて完璧に仕立てることも楽しかったですが、私が本当に目指したのは自分の想像を超えるものを作りだすことで、そのためには自分でブランドを立ち上げて、自分の表現したいことを突き詰めようと思いました。
--- デビューシーズンからロンドンコレクションに出展したのですか?
ブランドを始めた当初は小さなアトリエでコレクション製作を始め、ロンドンコレクションに参加するための42ピースを製作しました。
ちょうどCOVID-19が世界的に流行して...それを機に台湾に帰国しました。
それからしばらくは台湾で生地を制作して、それをロンドンに送って洋服にするというプロセスで製作していました。
--- ブランドのコンセプトを教えてください。
Cultural Historical Sustainability(文化的歴史的持続可能性)がブランドコンセプトです。
台湾の伝統的な生地や日本のヴィンテージの生地であったり、古来から伝わる天然染色の仕方、できる限り天然素材を用いること、現代に至るまでの歴史の変遷を振り返り、背景にあるストーリーをモダンな形で現代に蘇らせること、これらは全て結び付いていることで私のコレクション制作において非常に重要な考えです。
また、有機的で持続可能なアプローチをすることで、自分で作ったものがいつか土に帰り、そこから生まれた植物を使ってまた作る。というサイクルが生まれます。
衣服の原材料から製造プロセスの各段階で古来の生産手法を用いて自然環境保護にも重点を置いています。
--- あなたのコレクションは歴史の探究と文化の融合を中心に展開していますが、きっかけは何ですか?
これは主に私自身の経歴と台湾の歴史に起因します。
私の祖父は日本人で、祖父が持っていた古い写真や雑誌から歴史に興味を持ったことがきっかけで、台湾文化の起源や、東南アジア諸国の移民時代、日本植民地時代前後の先住民文化の統合についての過程に興味をもち、調査することから始めました。
台湾にとっての文化的発展が起こったのは19世紀後半から20世紀半ばの時代であり、台湾の原住民文化と伝統的な日本の文化が混ざり合っていく物語を研究して台湾の文化と伝統技術を紹介し、それらを独自のブランドに組み合わせたいと考えました。
--- デザインのインスピレーションになるものはどんなものですか?
古い歴史の研究資料や記録から想像して発展させていくことが多いですが、例えば先ほどの家族のアルバムや、1910年代から1940 年代のヴィンテージファッション誌もその1つです。
台湾原住民の服装や文化と当時の日本人が台湾に住んでいる写真の中にあるスタイルというふうに、この時代のさまざまな文化が混ざり合った様子を服装に表現しています。
--- デザインにおいて大切にしてることはどんなところですか?
思想的な面で言うと、一番大切にしているのは作品の背景にあるストーリーです。
アイディアやコンセプトが見た目だけのものではなく、どんなストーリーが詰まっているのか、背景がその作品から見えるようなもの、人の心が動くようなものを作ることを目指しています。
---技術的な方法ではどんなところですか?
私は昔から手作業の痕跡が感じられるものが好きだったので、手織り、手染め、手縫いといったものと、テーラーのテクニックを融合したもの。
私達のパタンナーも同じくLCでビスポークの専攻過程を卒業していて、例えばChiahung SUのジャケットのディテールは全て手縫いで仕立てています。
---製作の大部分を自分たちのこのアトリエで行っていますが、それはどうしてですか?
これはオーダーメイドスーツを制作していた経験に基づいています。
自分の考えるクオリティを実現させるためには、全て自分の目の届く範囲で管理して完成させるということは非常に大切で、自分でコントロールできるからです。
また、自社で制作するメリットはデザインの立案から形にするまで、あるいは修正のスピードも全く違います。
---次回は服作りのスタンスについて、より深く掘り下げて行きたいと思います。
引き続きよろしくお願いいたします。