
作り手の思想にフォーカスを当て、クリエーションの裏側にせまるデザイナーインタビュー企画。
第6回目はここ数シーズン使っているファリエロサルティについて。
世界の名だたるメゾンを顧客に持つファリエロサルティの魅力や特徴をはじめ、イタリアの工場へ行った際に感じたことや発見、社長のロべルト氏との交流などを語っていただきました。

長崎県出身
スポーツインストラクターを経て2005年、ブランド創設。
自身の経験と知識に基づいたパターンとハイクオリティな物作りが国内外のコアなファッションフリークからの支持を集めている。
"貴重なアーカイブが眠る部屋で数時間一人にしてもらい、生地を見ながら打ち合わせをして新たなものを設計している時はどんな遊びよりも楽しい時間でした。"
---イタリアの生地、特にファリエロサルティの生地を使い始めたのはどういった理由でしょうか?
ファリエロサルティの生地は特に獣毛繊維の原料の品質の良さ、生地の仕上げについてのユニークな考えとセンスが特徴です。
もちろん良い品質の生地工場は他にも沢山ありますが、現社長であるロベルト氏の人柄に惚れたところも大きな要因の一つだと思います。
日本でもそうですが、実際にイタリアの工場へ伺った際も私へ多くの時間を割いていただき、沢山の事を細かく教えていただきました。
私たちより大きな取引先は山ほどあると思いますが、私たちのような小さい発注に対しても納得いくまで打ち合わせしてくれたり、細かい要望にも真摯に対応してくれる事が何より嬉しかったです。
自分が同じ立場で同じ事ができるかと思うほどでした。
---イタリアの工場へ伺ったとおっしゃいましたが、その経緯を教えて下さい。
元々は弊社アトリエに彼らが来て製作について話をして作っていましたが、製作の話の中で他のメゾンはどういった過程で生地製作をしているかを質問した事がきっかけでした。
するとメゾンの生地担当者はファリエロサルティのアーカイブ室を見に来て製作している事を教えていただきました。
同じように招待してくれた事がきっかけでアーカイブ室に伺う事になりました。



---直接DEVOAのアトリエへきて、お話されていたんですね。
ストールを製作しているMonicaさん含め、社長などこれまで数回、私のアトリエに来ていただきました。
その時に私たちがどういう事を考え、過去にどんな生地を作っていたか、実際の商品も併せて見てもらい、過去の設計書を元に今後作りたい生地などの相談をしました。そこからセッションとコラボレーションが始まりました。
---ファリエロサルティの工場に行かれた際の様子を教えてください。
工場へは3日間伺い、生地製作に関する全ての工程を見学させていただきました。
テキスタイル部門、ストール部門、特に1950年代からの生地があるアーカイブルームにも行きました。
検査ルームではJIS規格と同じ徹底した品質管理をしていたり、加工の工程も見学させていただきました。


---それらは全部一つの施設内にあるんですか?
そうです。
コの字型の建物で、中に全ての施設が入っています。
とにかく広く一片が200mぐらいあったと思います。
ジャージーの織り機、通常のションヘル、墨染の加工工場、そこに検査なども含めた各工程に必要な機材や設備が全部詰まっており、これまで生地は沢山見てきているのですが、その独特の雰囲気と仕上がっている生地に対して、とても新鮮で刺激的な体験でした。
ファリエロサルティの本社はイタリアのプラトーにあります。
プラトーは日本の尾州のような織物の産地です。
その中でもファリエロサルティは大きな煙突が目印になっています。



---工場に行かれていかがでした?
実際に加工現場を体験すると生地のアイデアが沢山出てきました。
特に、貴重なアーカイブが眠る部屋で数時間一人にしてもらい、生地を見ながら実際に打ち合わせをして新たなものを設計している時はどんな遊びよりも楽しい時間でした。
自分の友人であるデザイナーや有名なメゾンも含め、沢山のブランドが彼らの生地を求めている事に納得がいく時間でした。



---アーカイブルームをご覧になって、そこで見たものを参考にしながら作ったんですか?
そこで見たものを自分の感性に落とし込みアレンジしたり、プリント柄に関してはこちらでデザインし直したりしました。
今と昔では原料も違うので、基本的に同じ設計は使っていません。
糸の本数を変更したり、今の加工技術をプラスして作ったりとするので、アーカイブ生地をそのまま掘り起こして製作する事は無いのですが、非常に勉強になる生地が多く存在していました。
昔自分が日本で設計を考えた生地等を持っていって、更に変更を加えて依頼した生地など、先が楽しみな企画もあります。
高価な生地になりますので私自身も実験的な生地に関しては試織をしてから進めるようにしています。
---生地はどれくらいの期間で出来上がるんですか?
生地は基本的には製作をお願いしてから約10ヶ月ぐらいの期間で製作します。
ですので2020-21AWの生地の製作依頼は現段階で終わらせています。






---社長のご自宅にも行かれたそうですね。
私が工場へ伺っている間のお昼ご飯は毎日ロベルトさんの家に招待していただき、ランチをご馳走になっていました。
ロベルト氏は自宅にある絵画や、各国で手に入れた小物などの説明を私にしてくださいました。
私はまるで、子供が自分の大切にしているおもちゃを説明してくれているような感覚で聞いていました。
彼がどんなに大きな会社になっても子供心を忘れず、仕事にプライベートにと情熱を燃やしていることは明確に理解できました。
特に豪華な食事ではないのですが、私にとってはどんな高級ホテルでも味わえないおもてなしと、決してお金では買えない、これ以上ない贅沢な時間と思い出をいただいた瞬間でした。
愛情と情熱を燃やす彼が作るからこそ、魅力ある生地ができるんだと思います。

---かなり人柄に惚れ込んでおられるようですね。
沢山のメゾンと付き合い、その要望に応えて継続している会社を持続しながら、今でも製作に関しては誰よりも熱心に世界中の原料や旧織機などを探し、生地製作に対しての情熱を注いでいます。
ロベルト氏は70代後半の年齢ですが、弊社アトリエにも何回も来ていただいています。その年齢でわざわざ日本まで来るパワーは凄いと思います。
私が製作したい細かい事に耳を傾け、同じ目線で考え、地位も名誉もありながら弊社のような小さいブランドの設計にも対応してくれる事に対しては、物作りが好きでないとできない事だと思います。
彼が製作した生地を使って製作出来る事に本当に感謝しています。

次回は19−20AWコレクションについてお聞きします